創刊以来6年3カ月にわたった連載も、いよいよ最終回となった。最後は、究極の“対極の愉しみ”をお伝えしたいと思う。
対極を考える時、日本人には悪い癖がある。選択すべきは“極”のどちらかだと思い込んでしまうことだ。二者択一に頭が向いてしまうのである。求められているのは、実は二者択一ではない。最も大きな効果をもたらす、第三のソリューションなのだ。問われるべきは、この第三の道なのである。
時間の使い方もそうだ。社会人の時間には、大きく分けて仕事の時間と自分の時間がある。だが、もうひとつ、“第三の時間”があると僕は思っている。この使い方こそが、人生を大きく変えていくことになると思うのだ。
人生はジェットコースターのようなもの、とはよく言われるが、僕は本当にその通りだと思う。頭に思い浮かべてみてほしい。コトコトと音を立ててコースターは頂に向かって上がっていく。そろそろかな、そろそろかな、と思うが、なかなか頂上はやってこない。おや、と思っていると、いきなり落下は始まる。
こうして登ったり、下ったりしていくのが人生である。間違っても、理想の資本主義に支配された経済学者の頭の中のように、物事は右肩上がりだけで進むわけではない。凸凹しながら時間は流れていくのだ。いい状態がやってくることもあれば、厳しい事態に飲み込まれることもある。
人生のジェットコースターを頂に向かって登っている時は、誰もが充実した時間を過ごしているだろう。それこそ、仕事の時間と自分の時間で目一杯になる。そして、コースターはやがて頂に到達する。このタイミングを自覚することは、極めて難しい。ひとつだけはっきりしていることがあるとすれば、居心地のいい空気に包まれていることだろう。それは頂のシグナルのひとつだ。目指していた大学に合格した。希望していた会社に入った。目標としていたポジションを得た。仕事が思う通りにできるようになってきた。結果が次々出始めた……。こういう時は、気をつけたほうがいい。コースターはやがて下りに向かうのだ。
「落ちる時は急激に落下するから気をつけろ」とアドバイスしてくれたのは、ディズニーのマイケル・アイズナーであり、GEのジャック・ウェルチだった。その意味がわかったのは、かなり後になってからだった。
頂から下りはじめてじたばた抵抗しようとする人がいるが、中途半端なことはやめたほうがいい。それこそ、コースターから落っこちてしまうようなことにもなりかねない。むしろ潔く下りきってしまったほうがいい。
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。クオンタムリープ代表取締役。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュアや百度(Baidu)の取締役も務める。1960年ソニー入社。スイス、フランス赴任後、オーディオ、コンピュータ事業の責任者を経て、社長、会長兼グループCEO、最高顧問を歴任。著書に『日本大転換』(幻冬舎新書)。