男が仕事のことばかり考えてしまうのは、万国共通のことらしい。引退後、やることがなくて妻にぴったりくっついて行動し、煙たがられる様子を形容した“濡れ落ち葉”という言葉があるが、かつて親しいイギリスの友人と英語で話をしていた時、直訳の“wet leaf”で意味が通ってしまって、ふたりで大笑いしたことがある。
そもそも、引退などという概念は女性にはない。引退は、仕事と組織のことしか頭にない男の発想の象徴かもしれない。実際、僕はすでに大きな経済団体などの活動は卒業しているが、妻は当時の“奥さまネットワーク”の集まりを今も楽しんでいる。昔始めた外国人女性たちの支援も今なお継続中だ。そういう場に僕が呼ばれたりすると、「こちらが出井さんのご主人」と紹介される。主役は妻である。
人生における時間には、大きくふたつある。仕事の時間と自分の時間だ。そして男と女では、実はこの時間の使い方が大きく異なると僕は感じている。仕事にばかり時間を費やす男に対し、女は自分の時間をしっかり持っているようだ。実際、ゴルフしかり、ワインしかり、食事に友達しかり、男はどこかで仕事とつながっていることが多い。「仕事抜きでゴルフを自分のためにやっている」と言える男性はごく少数だと思う。
一方、女性は買い物もエステも食事も習い事も、自分のためである。もちろん仕事のために時間やお金も使うが、そこにははっきりとした線引きがある。仕事にも夢中になる一方で、しっかりと自分の時間も確保して楽しむのだ。友達の作り方もきめ細かい。社会に出たら、友達作りが実は下手な男と大違いである。立場や肩書きが気になり、男はなかなかオープンになれない。だが、仕事をすぐに切り離せる女性は、自分の時間に友達をしっかり作るのだ。
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。クオンタムリープ代表取締役。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュアや百度(Baidu)の取締役も務める。1960年ソニー入社。スイス、フランス赴任後、オーディオ、コンピュータ事業の責任者を経て、社長、会長兼グループCEO、最高顧問を歴任。著書に『日本大転換』(幻冬舎新書)。