パリでお気に入りのホテルは、と問われれば、パークハイアットと答える。ニューヨークならフォーシーズンズだ。日本でも、こぢんまりとしたホテルを好む。正月はシャングリ・ラ ホテル東京で過ごした。
どうしてこぢんまりしたホテルなのか。そこには日本的な旅館文化への郷愁がある気がする。そういうものを知らず知らずに求めている自分がいるのだ。これも日本人ゆえの日本文化への親しみ、といえるかもしれない。
実際、隠れ家的な味わいが楽しめるのが、温泉地の高級旅館である。これは、西洋のホテル文化にはなかなかない。こぢんまりしていてプライバシーが守られる。一流の料理人の手の込んだ料理をゆったり味わうことができる。かつて作家たちが、長期滞在して小説を書いていたというのもうなずける。
ところが、日本の多くの旅館は戦略を誤ってしまったのではないか。バブル以降、日本の旅館はむしろこのこぢんまりしたよさから離れ、規模を大きくして、「規格量産型」のサービスを提供するようになった。気の利いた料理も出せなくなっていく。これでは、誰にとってもマイナスである。日本旅館とは本来何だったのか。アイデンティティクライシスに陥ってしまったとしか、僕には思えない。
実際、こぢんまりしたよさを残しながら、事業を成長させていく方法があったのではないか。例えば、ひとつひとつの旅館の規模はそのままに、それを多エリアでそれぞれの地域の個性も生かしながら展開すること。旅館のサイズは変えず、事業のスケールを変えるのだ。そういうビジネスモデルであれば、ありえた。実際に今それを目指しているのが、星野リゾートの星野佳路さんだろう。
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。クオンタムリープ代表取締役。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュアや百度(Baidu)の取締役も務める。1960年ソニー入社。スイス、フランス赴任後、オーディオ、コンピュータ事業の責任者を経て、社長、会長兼グループCEO、最高顧問を歴任。近著に『日本大転換』(幻冬舎新書)。