大好きな歌に中島みゆきの「時代」がある。1977年の曲だが、以来、何度もヒットを重ねている名曲だ。香港から日本に戻るフライト中、ウォークマンから流れてくるこの曲のサビに思わず反応した。「めぐるめぐるよ 時代はめぐる 別れと出会いを繰り返し」。まさにその通り、人間は出会いと別れを繰り返している。
だが一見、対極に見える両者は、実は極めて隣接している。卒業式という別れがあって、入学式という出会いがある。別れがあるから、出会いもあるわけである。その意味では、別れは必ずしも悲しいものではない。悲しい別れとは、出会いの期待がその悲しみを上回れない場合や親族など二度と出会うことができない人との別れ、しかもそれが突然、起きた場合に大きくなるのである。東日本大震災の被災者の方の悲しみはいかほどか、と思う。それは特別な別れであり、悲しみだったのだ。
一方で、と僕は思った。人間には、別れでも出会いでもない展開があるのである。例えば、知り合いではあったがそれほど親しくなかった人と、何かのきっかけでカチンとスイッチが入って親友になってしまった、というケース。男女でも、それまで長期にわたって仲のよい友達だったのに、突然恋が芽生えて思ってもみなかった関係になる、というのもそうだろう。
これは別れともいえないし、新たな出会いでもない。関係のステージが変わったのだ。人間関係を例に挙げたが、こうした新しい展開を、僕は「相転移」と呼んでいる。物理学の世界の用語だが、要するにフェーズが変化したということだ。人間というのは面白いもので、こういうことが時々起こりうるのだ。逆にいえば、だからこそ人間は生きていて面白い、といえる。
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。クオンタムリープ代表取締役。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュアや百度(Baidu)の取締役も務める。1960年ソニー入社。スイス、フランス赴任後、オーディオ、コンピューター事業の責任者を経て、社長、会長兼グループCEO、最高顧問を歴任。近著に『日本大転換』(幻冬舎新書)。