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読んでる本が男を語る 不満の多い男編

読んでる本が男を語る 不満の多い男編

『幸福に死ぬための哲学 池田晶子の言葉』

『幸福に死ぬための哲学 池田晶子の言葉』 池田晶子 著 NPO法人わたくし、つまりNobody編 講談社 ¥1,000

『幸福に死ぬための哲学 池田晶子の言葉』 池田晶子 著 NPO法人わたくし、つまりNobody編 講談社 ¥1,000

 自分がいかにして死にたいかを熱く語る人がいても、つまんないこと言うなあと思っていた。どちらも現実ではないという意味では、昨日見た夢の話のようであり、恋人でもなければ到底聞くに耐えないものとしか感じられなかったのである。
 しかし最近になってようやく、そんな語りたがりの先輩たちの気持ちがわかってきた。死を側に置いて生きるというのは、なんとも甘美なことなのだ。いくら歳月を重ねてもいまだ輪郭のはっきりしない生を、死の放つまばゆい光によって強く照らしてもらう。無意味で無価値かもしれないと諦めていた自らの生が、なんだかそれらしいものに見えてくるのだ。これぞ大人の知恵か。
 うっとりしている最中に出会った本書は、かつて「哲学エッセイ」で人気を博した故・池田晶子氏の著作から、エッジーかつディープな文節を選りすぐって編まれた、金言集のようなもの。「幸福に死ぬ」なんて、そんな素晴らしいことまでできるの! とページを開く。
 しかしそこには、のぼせていた私に冷水を浴びせるかのような言葉がゴロゴロと横たわっていたのだ。そのなかで特にクリティカルヒットした「生きながら死んでゆくのが人生」から一節を。
 〈多くの人は、とくに現代人は、自分を自分だと思い込んで、その自分を主張し続けて人生を終えますが、そうではなくて、本来は、どこまで自分というものを消してゆけるかが人生なのだ〉
 自らのちっぽけな生を無理やり確認するために、わざわざ死を借りてくるなんて、やっぱりつまんないのかもしれない。

日野 淳

日野 淳

1976年宮城県出身。出版社に15年勤務し、文芸誌編集長などを経て、フリーランスに。編集やコラム執筆を生業にする。

Photograph=植 一浩 Illustration=macchiro
*本記事の内容は15年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)
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