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とっておきBOOK|人生を独自のフィルターで見つめる|清水ミチコと穂村 弘のリレー書評

とっておきBOOK|人生を独自のフィルターで見つめる|清水ミチコと穂村 弘のリレー書評

『なにもないシアワセ 大東京ビンボー生活マニュアル』

『なにもないシアワセ 大東京ビンボー生活マニュアル』

『なにもないシアワセ 大東京ビンボー生活マニュアル』

『なにもないシアワセ 大東京ビンボー生活マニュアル』

前川つかさ著 イースト・プレス ¥1,200
前川つかさ著 イースト・プレス ¥1,200
今月の選者|穂村 弘 - 歌人。1962年に生まれる。近著は『絶叫委員会』『短歌ください』『君がいない夜のごはん』。/来月の選者|清水ミチコ
今月の選者|穂村 弘 - 歌人。1962年に生まれる。近著は『絶叫委員会』『短歌ください』『君がいない夜のごはん』。/来月の選者|清水ミチコ

 『大東京ビンボー生活マニュアル』が、著者自身によるベストセレクションという形で復刊された。しかも、主人公のその後を描いた新作が6編入っているという。私は思わず買ってしまった。旧版も文庫版も実家に全て揃っているのに。
 本書の内容はタイトルの通りである。主人公のコースケが、東京のボロアパートの六畳間に家具一つない空っぽ状態で暮らしている、というだけだ。しかし、読んでみると、これが面白い。
 タイヤキを通りすがりの見知らぬ人とふたりで買って(ふたりとも一匹丸ごと買うお金がなかったのだ)分けたり(一匹70円のところ、コースケが50円、もうひとりが20円出したから、タイヤキもその比率にちゃんと分けている)、中学校の夜のプールに忍び込んで泳いだり、大道芸人の「石」をこちらも「石」になって二時間もじっと見ていたり、ヘチマの水を取ったり、真夏に少しでも涼しいアパートの廊下で昼寝をしたり、なんとも羨ましくなるような暮らしぶりなのだ。時間の流れ方が違う。ビンボーが裏返しのパラダイスに見えてくる。
 今から振り返ると、この漫画が連載されていたのはバブルの真っ最中だった。そのことが、本作にほのぼのした印象とは裏腹な先鋭性を与えたんじゃないか。バブル期の東京においては、ほのぼのとビンボーにマイペースであることが最高の反逆だった、とは云えないか。それをより意識的にやったのが、例えば高野文子の『るきさん』だと思う。
 だが、時は流れた。バブルもそれに対するアンチも意識されることのない現在、この漫画が初めて出会う読者にどのように受け止められるのか、興味深いところである。

Photograph=茂呂幸正
*本記事の内容は11年11取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい
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