『大東京ビンボー生活マニュアル』が、著者自身によるベストセレクションという形で復刊された。しかも、主人公のその後を描いた新作が6編入っているという。私は思わず買ってしまった。旧版も文庫版も実家に全て揃っているのに。
本書の内容はタイトルの通りである。主人公のコースケが、東京のボロアパートの六畳間に家具一つない空っぽ状態で暮らしている、というだけだ。しかし、読んでみると、これが面白い。
タイヤキを通りすがりの見知らぬ人とふたりで買って(ふたりとも一匹丸ごと買うお金がなかったのだ)分けたり(一匹70円のところ、コースケが50円、もうひとりが20円出したから、タイヤキもその比率にちゃんと分けている)、中学校の夜のプールに忍び込んで泳いだり、大道芸人の「石」をこちらも「石」になって二時間もじっと見ていたり、ヘチマの水を取ったり、真夏に少しでも涼しいアパートの廊下で昼寝をしたり、なんとも羨ましくなるような暮らしぶりなのだ。時間の流れ方が違う。ビンボーが裏返しのパラダイスに見えてくる。
今から振り返ると、この漫画が連載されていたのはバブルの真っ最中だった。そのことが、本作にほのぼのした印象とは裏腹な先鋭性を与えたんじゃないか。バブル期の東京においては、ほのぼのとビンボーにマイペースであることが最高の反逆だった、とは云えないか。それをより意識的にやったのが、例えば高野文子の『るきさん』だと思う。
だが、時は流れた。バブルもそれに対するアンチも意識されることのない現在、この漫画が初めて出会う読者にどのように受け止められるのか、興味深いところである。