『黒冷水』は高校二年生と中学二年生の兄弟が憎み合う物語である。一人っ子の私には、兄弟というものを具体的には想像できないのだが、他人なら許せることが血縁相手だと何故か駄目、という感覚はなんとなくわかる。
それにしても毎晩二段ベッドの上下に寝ていながら互いに存在を否定し合う二人の心は凄まじい。兄弟喧嘩という言葉からイメージされる諍いを超えた家庭内戦争にびびりながらも、細部の異様な生々しさにページをめくる手が止められなくなる。憎悪が具体的な形になってぶつかり合うのが面白くてたまらない。
例えば、自分の留守中に部屋をあさりにくる弟の修作に対して、兄の正気が仕掛けたのは細かく折ったカッターナイフの替え刃を数百グラム使ったトラップだ。
正気が一番凝ったのが、ボックス内の替え刃の殺傷力だった。(中略)当初は百円ショップでそれを仕入れようとしたが、刃の甘さが理由でその案は除外した。ホームセンターに足を運び、様々なメーカーの替え刃を物色した。オルファカッターの替え刃が値段的にも品質においても丁度良い気がしたのだが、その棚にあった中で一番高価な、ドイツ製の替え刃を買った。敵にダメージを与えることに関しては、平和ボケした日本のメーカーのものより、実戦経験豊富なドイツ製、という意識が漠然としてあった。
「殺傷力」「敵」「平和ボケ」「実戦経験豊富」って……。もはや冗談か狂気かわからないぎりぎりのテンションを保ったまま、物語はどこまでもエスカレートしてゆく。作者は本作品で文藝賞を受賞したとき、実際に17歳だったらしい。