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とっておきBOOK|人生を独自のフィルターで見つめるふたりのリレー書評

とっておきBOOK|人生を独自のフィルターで見つめるふたりのリレー書評

『へうげもの』
時は戦国、「美」に魅入られた古田織部は、「出世」という武人としての目標を持ちながら、ふたつの欲を求め、煩悶しながら生きていく。「へうげ」とは「ふざけ、おどけている人」の意。
『へうげもの』

『へうげもの』

山田芳裕 著 講談社|1〜6巻 各¥540 7〜9巻 各¥560 以下続刊
山田芳裕 著 講談社|1〜6巻 各¥540 7〜9巻 各¥560 以下続刊
Text by|穂村 弘|歌人。1962年に生まれる。 近著はエッセイ集『整形前夜』。Next Month|清水ミチコ
Text by|清水ミチコ|三谷幸喜さんとの共著|『かみつく二人』発売中|Next Month|穂村弘
 選者をしている新聞の短歌欄に、先日、こんな歌が投稿されてきた。

赤紙を手にせし時の心境に
断ればいいのにと孫等の言へり
潮田 清

 なるほどなあ、と思う。「お祖父さん、赤紙がそんなに嫌なら断ればよかったのに」と孫たちに云われてしまったのだ。彼らがまだ子供なのかもしれないけど、それにしても、時代の価値観とその強制力って、時間が経つとこんなに伝わらなくなってしまうのか。そういえば、赤紙どころか、バブル期のハウスマヌカンの怖ろしさを現代の若者に説明することさえ難しい。
 だが、リアルタイムで「今」を生きているものにとっては、時代の価値観から自由になるのは至難の業だ。赤紙を無視したり、ジャージ姿でコム デ ギャルソンに入ったり、やっぱりできない。外部からの強制力のためというよりも、自分自身の内部にその価値観が組み込まれてしまっていることが問題なのだ。その縛りから本当に自由になるためには、もうひとつの価値観をもつ必要がある。
 『へうげもの』は戦国時代が舞台の漫画である。当然ながら、侍である主人公は戦って手柄を立てて一国一城の主になるという当時の価値観に強く支配されている。
 だが、彼は同時に全く異なる「もうひとつの世界」に生きてもいる。それは美しい茶道具を命懸けで求めるという物欲の世界だ。第一章のタイトルからして「君は“物”のために死ねるか!?」だから凄い。
 ここでの「物」とは主に茶器のなかの「名物」や「大名物」を指している。読み進むにつれて、生か死か、武の道か数奇の道か、どちらをとるべきか激しく迷いながら、ふたつの世界に跨がって生きる主人公の姿が羨ましく思えてくる。

茂呂幸正=写真

*本記事の内容は09年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい
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