音楽家・坂本龍一。映画監督・三池崇史。映画『一命』でふたつの才能を結びつけたのは、プロデューサーのジェレミー・トーマスだった。1983年に坂本が音楽を担当し出演した『戦場のメリークリスマス』(監督・大島渚)や、'87年にアカデミー賞作曲賞を受賞した『ラストエンペラー』(同ベルナルド・ベルトルッチ)などを手がけ、2010年公開の三池監督作品『十三人の刺客』のエグゼクティブ・プロデューサーでもある。
三池 『十三人の刺客』の時、ジェレミーが言ったんです。
「この映画の音楽は、なぜサカモトじゃないんだ!」とね。でも、坂本さんがそんなに簡単にはやってくれないでしょう、というのが僕のあの時の感覚で(笑)。すると、ジェレミーが「ならば、次回はオレから依頼する」と。それが今回の『一命』につながりました。
坂本 もし僕が『十三人の刺客』をやったら、『一命』とは正反対の激しい音楽になった気がします。それも面白かった。
三池 確かに『一命』の坂本さんの音楽は“静”ですね。映画の中で音楽が鳴るのではなく、物語の静かな流れの中で、そっと聴こえてくる。観客と登場人物たちをつなぐものとして、静かに音があるイメージです。こういう音楽の入れ方は確信と勇気がなくてはできるものではないと感じました。
坂本 『一命』は静けさに満ちた作品なので、ビートがない音楽がいいと思ったんですよ。雲が空をゆっくりと流れていくような旋律にしたかった。静かに鳴りはじめて、聴こえてきたな、と思うと、また静寂に吸いこまれていく。その時に、画面では誰かが息を引きとっている、というような。僕自身、一作一作、必ず何か新しい挑戦をしていて、今回も『一命』という作品で一つ、階段を上らせていただいた。僕の感覚が正しかったかどうかは、まだわかりませんけれど。
三池 『一命』にあの坂本龍一が音楽を作ってくれる──というので、僕、もうわくわくしましてね、高揚してレコーディングの初日を迎えたんですよ。ところが、スタジオに行き着くことができませんでした。
坂本 3月11日でしたからね。
三池 大地震後の混乱の中、それでも何とかたどりつこうとしたら、スタッフから連絡が入った。「本日分のレコーディング、無事終えました」と。びっくりしましたよ。
坂本 あの日はギタリストの村治佳織さんの録音でした。今日は無理かな──とあきらめかけていたら、彼女が現れたんです。しかも、「遅れてすみません」と言ってくれて。あの状況下、演奏家もスタッフも揃いました。
三池 プロフェッショナルの凄みを感じました。僕の映画の撮影現場で同じことが起きたら、みんなあわてて、仕事にならなかったかもしれません。なぜジェレミーが坂本さんと僕を組みあわせたのか──と今も考えるのですけど、彼は多分、映画監督としての僕に“欠落”を見ているんだと思います。でも、その欠落を一つひとつ指摘して修正してしまうと、僕が撮る意味を失う。そこで、欠けている部分を埋めるのではなく、坂本さんの音楽と結びつけることによって新しい何かを生みだそうとした気がしています。
1952年東京都生まれ。'78年『千のナイフ』でソロデビュー。YMOなどを経て'83年『戦場のメリークリスマス』で映画音楽を手がける。'87年『ラストエンペラー』でアカデミー賞、グラミー賞などを受賞。
1960年大阪府生まれ。'91年作品『突風! ミニパト隊』で監督デビュー。『オーディション』『妖怪大戦争』『インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜』『ヤッターマン』『十三人の刺客』など話題作多数。