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滝藤賢一、中年男性の悲哀に辛抱

滝藤賢一の映画独り語り座 Vol.32

感情に身を任せず
その先にあるものを見る

『幼な子われらに生まれ』

(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

  • 『幼な子われらに生まれ』
    2017年/日本
    監督:三島有紀子
    出演:浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎 ほか
    配給:ファントム・フィルム
    8月26日よりテアトル新宿ほか全国公開

皆さん、夏はいかが過ごされましたか? 滝藤はありがたいことに、撮影続きで"家族でキャンプ計画"が夢と化した40歳の夏でした。まぁ昔は40歳なんてオッサンかと思っていましたが、なってみると身体も気持ちもコンディションが整って、愉しいんですね。しかし一方、中年男性の悲哀を描いた物語に感じ入ることも多くなってきたのも真実。重松清さんの同名小説を映画化した『幼な子われらに生まれ』は、もう辛抱、我慢の映画でございました。こんなに自分に置き換えられる映画も珍しいかもしれない。

父親役の浅野忠信さんの壊れゆく様が抜群です。同じ父親として強烈に響きました。浅野さん演じる信(まこと)は、再婚して穏やかな家庭を築いてきたのに、妻の妊娠がきっかけで、妻の12歳の連れ子が露骨に反抗する。同じ部屋にいるだけで嫌、あげく「あんたなんて本当のパパじゃない。本当のパパに会わせて」と忌み嫌う始末(泣)。これはもう、ある意味背筋の凍るホラーですよ。私にも娘がいますから、数年後に似たようなことが自分の身に降りかかってくるかと思うと、何とも恐ろしい。しかも私は4人子供がいますから......。それまでに"反抗期も楽しみのひとつ、子供が大人になる過程"と懐深く受け止められる男になれていればいいのですが......。

そして、田中麗奈さん演じる妻がまた、いい具合に面倒くさい。家族の厄介事に気づいていない単なる鈍感な女性なのか、気づいているからこそ敢えて知らぬふりを装って家族の調和を保とうとしているのか。家庭はちゃんと守っているけど、経済的・精神的にはどっぷり夫に依存して重い、という妻を絶妙な塩梅で演じていらっしゃいます。

21年前に書かれた原作では信のストレスの発散先としてSMの女王様がいたようですが、映画ではいっさい、逃避先がない。娘の膨れ上がる反抗にも、手を上げず、ひたすら我慢させる演出。すんでのところで踏みとどまる信の選択は、映画を観終わった後、やはり正しかったのだと思わせてくれる。またひとつ、親の在り方を教えてくれる映画を発見いたしました。

  • Kenichi Takitoh
    1976年愛知県生まれ。『黒革の手帖』『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』と今季2本のドラマに出演中。映画『関ヶ原』も8月26日公開。

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Composition=金原由佳

*本記事の内容は17年8月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)