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さだまさしの度肝を抜いた熊本のバー

酒の渚 さだまさし
『ぷれいやぁず』(1) 博打の横顔

到(いた)るところに達人や名人が潜んでいて、お客を唸らせたり感動させたりしてくれるのは珍しくなかった、そんな昭和の頃の話だ。

常連達が静かに呑んでいる時にはマスターは存在を消し、ただのバーテンダーとして黙々と立ち働いていたが、ふと見知らぬお客同士の間にすきま風が吹き込みそうになると、見事な頃合いで颯爽と立ち上がるのだ。

まず軽くカードマジックでお客の度肝を抜く。

今日出会ったお客三組の前で封を切ったばかりのバイスクルのカードを、お客の手にそっくり渡して心ゆくまでインチキがないことを確かめさせ、カード全てが揃っていることを了解させてから、ショータイムが始まる。

見知らぬお客同士が、それぞれ交代で三人がかりで切ったカードを伏せたまま扇に開いて誰かに一枚引かせ、みんなで確認をさせたあと、もう一度中に入れさせて自分で幾度かカードを切る。そして、お客にも何度でも切らせてからそっとカウンターに置き、表側を扇に開いて、お客が自分で引いたカードを確認させる。

だが何故かその一枚だけがどうしても見つからない。

見知らぬお客同士の心が同じ驚きで近づく瞬間、マスターが天井を指さすと、その一枚が客席の天井にぴたりと張り付いている。

「おお」どよめきと共に店のお客の心が一つになる瞬間だ。

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Illustration=粟津泰成(YASUNARI AWAZU)

*本記事の内容は17年6月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)