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「社会の部品でいたい」芥川賞受賞作

村田沙耶香『コンビニ人間』

多様化を認めるなら
社会の部品になりたい人を否定してはいけない

『コンビニ人間』
村田沙耶香 著 文藝春秋 ¥1,300

すすんで社会の歯車になりなさいと言う人がいて、10年前の私だったらそんなのアホらしいと思っていたわけだが、会社を辞めてフリーランスになり、社会の物音がまったく聞こえない日、つまり仕事の依頼はおろかちょっとした業務連絡すら来ない日が幾日か続くと、歯車でも何でもいいから社会と関わりたいと渇望してしまう。いやむしろ歯車になることこそ仕事だったのだ。

私個人の環境の変化は別としても、世間一般において社会の歯車という言葉が肯定的な意味合いで使われるようになったことは事実だろう。でもそれが「部品」となるとまだまだ抵抗すべきような気持ちを喚起させる。歯車は部品のひとつなのに不思議。そしてそこに不思議があるからこそ、この小説は存在する。

主人公の恵子は36歳で未婚。大学を卒業しても就職せず、コンビニのアルバイトを18年続けている(同じ店舗で)。三食をコンビニご飯で済ませ、夢の中でもレジを打つコンビニ漬けの日々。でも心は満ち足りているのだ。恵子は勤め始めた日のことをこんなふうに振り返る。

「そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。(中略)世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった」

完璧な部品としてあるため努力を怠らない恵子。しかしそんな彼女も周囲から見れば、いい歳して結婚もせず不安定な仕事をしている変わり者だ。雑音を封じるために、恵子は突拍子もない或る行動に出るのだが、そのあたりは読んでのお楽しみ。

生き方の多様化があらゆる場所で叫ばれていることを考えると、やがて社会の部品という言い回しからもネガティブなニュアンスが消えていくはず。それが素晴らしいことかどうかは私にはわからない。

  • 日野 淳
    1976年宮城県出身。ブックライター・書評家。出版社に15年勤務し、文芸編集長などを経て、フリーランスに。

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Illustration=macchiro

*本記事の内容は16年8月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)